むち打ち

むち打ちは後遺症(後遺障害)認定されない、というのは本当か?

いわゆる「むち打ち症」は、「頚椎捻挫」、「外傷性頚部症候群」などという診断名がつけられる、交通事故ではよく見られるケガです。
ところが、保険会社の担当者ばかりでなく、治療してもらっている医師からも「むち打ちでは、後遺症認定は受けられませんね。」このように言われてしまうことがよくあります。

確かに、「むち打ち症」というのは、首の痛みや頭痛というように主に被害者の訴えに基づく診断名に過ぎません。
レントゲンやMRIに写るものではありませんし、その他の客観的な検査によっても異常が見当たらない(「医師による他覚的所見が乏しい」という言い方をします。)ものですから、後遺障害等級が認められにくいというのも事実です。

しかし、「むち打ち症」では、本当に後遺障害は認定されないのでしょうか?
結論から申し上げますと、「むち打ち症」も十分、後遺障害認定の対象となります。後遺障害等級でいえば、14級9号の「局部に神経症状を残すもの」にあたる可能性があります。
なお、12級13号の「局部に頑固な神経症状を残すもの」に当たる可能性もないとは言い切れませんが、医師による他覚的所見があることを証明できない以上、これが認定されることはないと考えておきましょう。

むち打ち症が後遺症(後遺障害)認定されるための条件

以下のような条件をすべて満たせば、むち打ち症も「局部に神経症状を残すもの」にあたり、後遺障害等級14級9号が認定されます。

  • 常時はっきりとした
    自覚症状がある

    例えば、「首が痛くて10分以上パソコン画面を見ていられない。」、「首を動かすと痛むので自動車の運転ができない。」というように、仕事や日常生活への支障を伴う具体的な自覚症状があることが必要です。

    「なんとなく首のあたりが重い」とか、「雨が降ると首が痛む」とかいう程度では、後遺障害とは認定されません。

  • 十分な治療実績がある

    後遺障害として認定されるためには、最低でも6か月以上の治療実績がなければならないのはもちろんですが、「むち打ち症」ならなお一層の治療実績(8か月程度)があることが望まれます。
    ただし、6か月以上の治療実績があったとしても、まじめに通院していなければダメです。
    月に1回程度通院しているだけでは、「むち打ち症」で後遺障害と認定されることはありません。
    どの程度通院していればよいのかについては、個人の症状や治療内容によりますので一概には言えませんが、最低でも1週間に1回は通院している必要はあります。毎日通院する必要はありませんが、週に2、3回は電気治療やリハビリに通院していなければ、後遺障害として認定されるのは難しいと考えておいた方がよいでしょう。

  • 症状を改善するために
    積極的な治療、原因究明をした

    例えば、痛み止めのブロック注射をしたとか、強い痛み止めの薬を内服していたなどです。ですから、漫然と電気治療を続けていたとか、湿布薬をもらっていただけというようなことでは、後遺障害と認定されるのは難しいかもしれません。

    また、2、3か月医師から指示された治療を続けても症状が改善しないのであれば、筋肉や靭帯といった軟部組織の炎症にとどまらず、首の神経根が圧迫されていたり、頚椎椎間板ヘルニアの影響を受けていたりする可能性があるので、レントゲン撮影検査だけでなく、MRI撮影検査も受けて、症状が改善しない原因を究明しておく必要があります。

  • 事故直後から症状固定するまでの
    症状に一貫性がある

    例えば、事故直後は腰が痛いと言っていただけなのに、2、3か月経ってから首か痛いと言い出した。
    事故直後は首の左側から左肩にかけての痛みを訴えていたのに、症状固定時は首の右側から左肩にかけて痛みがあると訴えている。このようなケースでは「症状の一貫性がない」と判断され後遺障害とは認定されません。

    本当に痛みなどの症状が残っているのであれば、一貫性のない症状にはならないという、いわば「常識的な」考えに基づいています。

後遺症(後遺障害)認定してもらうために被害者がすべきこと

上のように文書にしてしまうと簡単なように思えます。ところが、実際に認定してもらうには非常な困難を伴います。

まず、後遺障害の認定の対象となる具体的な自覚症状があったとしても、それが医師に伝わっていなければ、病院から保険会社に送られる診断書や後遺障害診断書に反映されません。後遺障害等級認定の手続きは、一部の例外を除いて書面審査なのです。このことはしっかりと覚えておきましょう。
ですから、むち打ち症による自覚症状については、適切な時期に適切な方法で医師に伝える必要があります。

また、医師に悪気はないのでしょうが、むち打ち症の患者に対しては電気治療などを漫然と続けさせる医師が多いということも知っておきましょう。
漫然とした治療をされないためには、患者の側から症状を改善するための積極的治療を求めたり、症状の原因を究明するための検査を求めたりする必要があります。しかし、どのような治療や検査を、どのように医師にそれを求めたらよいのか、一般の人には分からないですよね。
このように、むち打ち症を後遺障害認定してもらうことは、実はとても難易度が高いのです。

ですから、むち打ち症になって、事故から3か月近く経っても症状が良くならない。同じような治療を漫然と続けさせられているように感じる。このような方はできるだけ早めに後遺障害に詳しい専門家のアドバイスをもらうことをお勧めします。

むち打ち症と整骨院

最近は、「交通事故治療専門」、「むち打ち治療専門院」というような広告看板を掲げている整骨院が増えています。確かに、整骨院での施術費についても自賠責保険や自動車保険会社に支払ってもらえます。
また、整骨院のスタッフは病院よりも親身で親切なところも多いですし、待ち時間も病院に比べれば少なくて済みます。そのせいなのか、むち打ち症で整骨院にかかっている被害者の方は実際とても多いです。

しかし、後遺症(後遺障害)認定を受けるとなると、整骨院にかかることは、間違いなくあなたにとって不利に働きます。
というのは、後遺症と認定されるためには、西洋医学において一般に承認された治療を行ったにもかかわらず、治り切らなかったということが当然の前提とされているからです。
整骨院では、画像診断等の検査結果に基づく正確な診断や治療法の選択ができませんし、投薬、注射などによる積極的な症状緩和治療ができません。
つまり、回復に向けて「キチンと治療を受けていた」とはとらえてもらえないのですね。
ですから、あなたが整骨院しかかかっていない場合、または病院にかかっていたとしても、整骨院での「治療」がメインで、病院への通院が月1回程度ということでは、まず後遺症(後遺障害)とは認定されません。整骨院での「治療」を無意味なものだとは決して思いませんが、交通事故での治療として整骨院に通うことはお勧めできません。

今、むち打ち症で整骨院に通っている方で、「施術を続けているのに症状が良くならない」、「後遺症が残るのではないか」と感じている方は、今からでも遅くないので病院で治療を受けましょう。

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