醜状障害

医師さえも知らない後遺障害「醜状障害(顔などの醜い傷跡)」  

交通事故による怪我で、顔や手など体の目立つ部分に醜い傷跡が残ってしまうことがあります。一般的にはあまり知られていませんが、そのような醜い傷跡が残ってしまった状態を「醜状障害」といい、この醜状障害も後遺障害として等級認定の対象となります。
この醜状障害が後遺障害の認定の対象となるということを知らない医師もいます。また、何となく後遺障害の認定の対象になることを知っていても、どの程度の傷跡であれば認定の対象となるのかを知らない医師がほとんどです。
皆さんには信じられないかもしれませんが、医師の中には「顔の傷跡が後遺症になるはずはない」と何の根拠もなく醜状障害という後遺障害自体を否定する方もおられますし、「顔にけがが残っただけでは労働能力は喪失しないので、後遺障害にはならない」ともっともらしい理屈をつけて、醜状障害という後遺障害を否定する方さえおられるのです。

意外と高い賠償金!?知らないと数百万単位の損失に

例えば、自転車を運転していて乗用車と接触、転倒して左顔面に3㎝以上の線状の傷跡が残った場合、後遺障害等級第12級第14号が認定され、自賠責基準でも224万円が支給されます。仮に傷跡が5㎝以上であったとすれば、第9級第16号が認定され、自賠責基準でも616万円が支給されます。
このように醜状障害は、一般にも医師にさえも十分知られていない後遺障害であるにもかかわらず、これが認定されるか否かで、被害者が受け取れる賠償金にも大きな影響を与えてしまうということが、十分にお分かり頂けたと思います。
この後遺障害を知らないことで、多額の賠償金をもらい損ねている交通事故の被害者はどれほどおられることか、想像もつきません。

醜状障害の区分と後遺障害等級認定基準

醜状障害の認定基準

  • 区分 外貌
    後遺障害等級 第12級第14号
    第9級第16号
    第7級第12号
    障害の程度
    • 外貌に(ⅰ)「醜状」を残すもの
    • 外貌に(ⅱ)「相当程度の醜状」を残すもの
    • 外貌に(ⅲ)「著しい醜状」を残すもの

    いずれの場合も(ⅳ)「人目につく程度以上のもの」であること

  • 区分 露出面(上肢・下肢)
    後遺障害等級 第14級第4号
    第14級第5号
    障害の程度
    • 上肢の露出面に「手のひらの大きさ」の醜いあとをのこすもの
    • 下肢の露出面に「手のひらの大きさ」の醜いあとをのこすもの

醜状障害の区分

醜状障害も、生じた部位によって上記のように区分されます。

  • 外貌醜状…
    顔面や頸部、頭部のように、手足以外の日常露出する部分に残った傷跡を「外貌醜状」といいます。
  • 露出面の醜状…
    手(上肢)足(下肢)に残った傷跡を「露出面の醜状」といいます。

外貌醜状の認定基準

  • (ⅰ)「醜状を残すもの」とは、原則として、顔面部の長さ3㎝以上の線状痕で、人目につく程度以上のものをいいます。

「醜状」とは、原則として、次のいずれかに該当するもので、人目につく程度の以上のものをいいます。

  • 頭部においては、鶏卵大面以上の瘢痕また頭蓋骨の鶏卵大面以上の欠損
  • 顔面部にあっては、10円銅貨大以上の瘢痕または長さ3㎝以上の線状痕 
    ※外貌醜状の中でも最もよく見られるケースです。
  • 頸部にあっては、鶏卵大面以上の瘢痕
  • (ⅱ)「相当程度の醜状」とは、原則として、顔面部の長さ5㎝以上の線状痕で、人目につく程度以上のものをいいます。
  • (ⅲ)「著しい醜状」とは、原則として、次のいずれかに該当する場合で、人目につく程度以上のものをいいます。
  • 頭部においては、手のひら大(指の部分は含まない。以下同じ。)以上の瘢痕又は頭蓋骨の手のひら大以上の欠損
  • 顔面部にあっては、鶏卵大面以上の瘢痕又は10円銅貨大以上の組織陥没
  • 頸部にあっては、手のひら大以上の瘢痕
  • (ⅳ)「人目につく程度以上のもの」であること等級認定の対象となる外貌の醜状とは、他人に醜いと思わせる程度、すなわち「人目につく程度以上のもの」である必要があります。ですから、瘢痕、線状痕、組織陥没であっても、眉毛、頭髪等に隠れる部分については、醜状とは扱われないことになります。
  • (ⅴ)複数の瘢痕または線状痕がある場合、例えば、顔に怪我をしたような場合には、負傷箇所は一か所だけとは限らず、眉間と眼瞼のように複数個所を負傷することがよくあります。その結果、瘢痕や線状痕も一つではなく、複数残るということもあります。このような場合、障害の程度はどのように認定されるのでしょうか。
    2個以上の瘢痕または線状痕が相隣接し、または相まって1個の瘢痕または線状痕と同程度以上の醜状を呈する場合は、それらの面積、長さ等を合計して等級を認定することになります。
    前述の例で、眉間の傷(線状痕)が2.5㎝、眼瞼の傷(線状痕)が2.8㎝ある場合に、それぞれの傷は3㎝に満たないので、外貌の「醜状」(第12級第14号)の要件を満たさないが、両者が相隣接しており、両社を合算すれば5.3㎝の線状痕となり、外貌の「相当程度の醜状」(第9級第16号)の要件を満たすということになります。

外貌醜状の認定基準

  • (ⅰ)上肢や下肢の「露出面」とは、以下のとおりです。

上肢にあっては、
上腕(肩関節以下)から指先まで
下肢にあっては、
大腿(股関節以下)から足の背まで

※なお、労災基準では、露出面を上肢は肘関節以下(手部を含む。)、下肢は膝関節以下(足背部を含む。)と定義されており、自賠責の方が広範囲になっている点は注意が必要です。

  • (ⅱ)上肢や下肢の露出面に「手のひらの大きさ」を相当程度超える瘢痕がある場合

上肢や下肢の露出面に「手のひらの大きさ」を少々超えた程度ではなく、「手のひらの大きさ」の3倍程度以上の瘢痕が残った場合で、特に著しい醜状と判断される場合には、相当等級を適用して12級相当と認定されます。

  • (ⅲ)上肢や下肢の露出面に複数の瘢痕または線状痕が存在する場合

この場合はそれらの面積を合計して認定することになります。ただし、この場合、少なくとも手のひら大以上の瘢痕を残すものに該当する程度の瘢痕または線状痕が1個以上残存している必要があるので、これに該当しない程度の瘢痕または線状痕のみが複数存在している場合は、それらの面積を合計して認定することはできません。

認定申請する際の注意点

後遺障害診断書の記載

  • (ⅰ)傷病名記載欄に、「前額部挫創」、「左眼瞼切創」等、醜状の原因となった傷病名を、医師に記載してもらう必要があります。
  • (ⅱ)「各部位の後遺障害の内容」の「⑦醜状障害(採皮痕を含む)」欄の該当する箇所
    (1. 外貌 イ. 頭部 ロ. 顔面部 ハ. 頚部 2. 上肢 3. 下肢 4. その他 )
    のいずれかに○を付けます。
    その上で、欄内に、顔や上肢・下肢の図(イラスト)を書き、醜状の位置や形状(瘢痕、線状痕等)大きさ(長さ・面積等)を記載します。
  • (ⅲ)後遺障害診断書に(ⅱ)の記載がないと、(ⅰ)の記載があったとしても、認定審査の対象外とされてしまうので、注意して下さい。また、醜状の長さや大きさも、医師の目測ではなく、定規や巻き尺を使用してミリ単位まで正確に測定してもらって下さい。

症状固定及び認定申請の時期について

醜状障害も、他の後遺障害と同様、受傷から6か月を経過すれば、症状固定として後遺障害認定申請することは可能ですが、醜状障害だけでなく、他の部位の傷病(例えば、足の骨折)の治療がまだ継続していて、その治療期間が長引きそうな場合には、醜状障害の認定申請だけを先にすることも可能です。
むしろ、被害者が若年者(30歳未満)の場合には、傷跡の修復も早く、他の部位が症状固定するのを待っていたのでは、傷跡も目立たなくなってしまうことも予想されるので、受傷から6か月を経過したできるだけ早い時点で、症状固定し、認定申請することが、認定テクニック上望ましいこともあります。

自賠責損害調査事務所での面接調査について

申請をしてからしばらくすると、自賠責損害調査事務所から「醜状について面接調査をするから調査事務所に来所するよう」案内が送られてきます。そこで、調査事務所の担当者と面接時間の調整をして、調査事務所に赴き、複数の面接担当者が、醜状の部位、位置、形状、大きさ等を直接、目視で確認します。さらに、その長さ・大きさについて、後遺障害診断書の内容と相違がないか、実際に定規や巻き尺等を使って確認を行います。
自賠責保険における後遺障害等級認定手続は、原則として書面や画像検査データによる審査ですが、醜状障害だけが面接調査(審査)が行われる例外となっています。

醜状障害認定申請における当事務所のサービス

後遺障害診断書作成の過程と認定実務の現状

「醜状障害なんて誰もやっても同じ」
これは、傷跡なんて誰がみてもその形状や大きさは変わりないのだから、醜状障害なんて専門家が関与しようとしまいと、どのような専門家が関与しても結果は変わらない。そういう意味のようです。このような言葉をまことしやかにのたまう「交通事故の専門家」は、残念ながら数多く存在します。
しかし、良く考えてみて下さい。醜状障害では傷跡の大きさが僅かに足りないだけで、後遺障害が認定されなかったり、低い等級が認定されてしまったりします。例えば線状痕についていえば、その長さが2.9㎝と測定され、長さが1ミリでも足りなければ後遺障害とは認定されません。このように、些細な測定値の誤差が結果に大きな影響を与えてしまう、ある意味「非常にシビアな」後遺障害等級なのです。

あなたが頬の曲面にある傷跡の長さを巻き尺で正確に測ったところ、少なくとも3㎝はあったので、医師に後遺障害診断書の記載をお願いしました。ところが、医師が定規のみのいい加減な測定で、「2.9㎝」と記載されてしまう恐れは絶対にないでしょうか?また、医師が慎重かつ正確に測定した結果、「3.1㎝」と記載しているにもかかわらず、自賠責損害調査事務所の担当者が同じように頬の曲面を無視して、2.9㎝と認定してしまうことはありえないことでしょうか?
さらに、複数の線状痕や瘢痕があったとしても、自賠責損害調査事務所の担当者は、被害者側で指摘しない限り、それらが隣接していたとしても、それらの長さや大きさを、わざわざ合算してくれるようなことはしません。
ですから、「醜状障害なんて誰もやっても同じ」なんて言っている方々は、私からすれば、認定実務を知らない「机上の空論」をのたまわっている者と言わざるをえないのです。

当事務所の対応

以上のような現状を踏まえ、当事務所では醜状障害等級認定の際には以下のような対応をおこなっています。

  • (ⅰ)後遺障害診断書に記載必要な事項を書面及び口頭で医師に案内するとともに、傷跡の測定の際には、適正な測定が行われるよう、医師の測定の現場に私も立ち会います。
  • (ⅱ)自賠責損害調査事務所での面接調査の際も私が同行し、測定の現場にも立ち会い、調査担当者が適正な方法で測定しているかチェックします。また、合算されるべき複数の線状痕や瘢痕があれば、これを指摘して、これらが適正に評価されるようにします。
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